クリニックの分院開設
クリニック分院開設の手続き完全ガイド|既存院の実績を活かした展開戦略
はじめに
診療所を1院経営し、順調に患者数が増えてきた。地域での認知度も上がり、スタッフも安定してきた。そんな時、「もう1院開設できないだろうか」と考える院長先生は少なくありません。
分院開設は、既存院で培った医療サービスを別のエリアにも提供できる絶好の機会です。本記事では、すでに1院を運営されている院長先生に向けて、分院開設の具体的な手続きと押さえるべきポイントを解説します。
分院開設を検討するタイミング
分院開設に適した状況
- 既存院の経営が安定している:開業後3年以上経過し、安定的な患者数と収益を確保
- 需要の高いエリアを発見した:診療圏分析の結果、競合が少なく潜在患者の多いエリアがある
- 常勤医師を確保できる見込みがある:分院の管理者として配置できる医師がいる
- 資金調達の目処が立っている:既存院の実績により金融機関からの信用がある
1院目との違い
メリット
- 既存院の運営実績があるため、融資を受けやすい
- 医療機器や什器備品の調達ノウハウがある
- スタッフ採用・教育の経験を活かせる
- 診療システムや業務フローを横展開できる
注意点
- 既存院と分院の両方を管理する体制が必要
- 分院の管理者として常勤医師の配置が必須
- 既存院の経営に影響が出ないよう資金繰りに注意
分院開設の準備フェーズ
1. 立地選定のポイント
診療圏の考え方
- 既存院と半径2-3km以上離し、患者の奪い合いを避ける
- 人口動態や競合状況を分析
- 駅近、幹線道路沿いなどアクセスの良い立地を選定
2. 資金計画の立案
初期投資(目安)
- 内装工事費:1,500万円〜3,000万円
- 医療機器:1,000万円〜2,000万円
- 什器備品:300万円〜500万円
- 保証金・敷金:賃料の6〜12ヶ月分
- 合計:3,000万円〜6,000万円程度
運転資金
- 開業後3〜6ヶ月分の運営費用を確保(月間経費×3〜6ヶ月分)
3. 管理者(常勤医師)の確保
診療所には管理者として常勤の医師を配置する必要があります。
選択肢
- 新たに常勤医師を採用する
- 既存院の院長が分院の管理者を兼務する(両院の距離や診療時間要確認)
- 非常勤医師を常勤換算で配置する(診療科や規模による)
分院開設の手続きとスケジュール
全体スケジュール
分院開設には最低でも4〜6ヶ月かかります。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 6ヶ月前 | 物件選定・契約、資金調達開始 |
| 5ヶ月前 | 内装設計・工事開始、医療機器選定 |
| 4ヶ月前 | 管理者確保、スタッフ採用開始 |
| 3ヶ月前 | 内装工事完了、医療機器搬入 |
| 2ヶ月前 | 診療所開設届提出 |
| 1ヶ月前 | 保険医療機関指定申請 |
| 開業日 | 診療開始 |
Step 1:診療所開設届(開設後10日以内)
提出先:分院所在地を管轄する保健所
主な添付書類
- 診療所開設届
- 管理者の医師免許証(写し)
- 建物の平面図
- 案内図・周辺地図
- 定款または登記簿謄本(法人の場合)
ポイント
- 開設後10日以内の届出だが、実務上は事前相談を推奨
- 保健所により必要書類が異なるため事前確認必須
- 構造設備基準を満たす必要がある
Step 2:保険医療機関指定申請(開業希望月の前々月10日まで)
提出先:地方厚生局
主な添付書類
- 保険医療機関指定申請書
- 診療所開設届の受理証明書
- 保険医登録票(管理者および勤務医)
- 施設の平面図
- 診療時間表
申請のタイミング
- 例:4月1日開業希望の場合、2月10日が申請期限
- 指定は毎月1日付で行われる
- 期限厳守:遅れると開業が1ヶ月遅れる
Step 3:エックス線装置設置届(設置後10日以内)
レントゲン設備を導入する場合、保健所に届出が必要です。
Step 4:その他の必要な届出
診療内容により以下が必要になる場合があります。
- 麻薬施用者免許申請(緩和ケア等で麻薬を使用)
- 医療用具販売業届出(在宅酸素療法等)
- 労働保険・社会保険の手続き(従業員雇用時)
資金調達のポイント
既存院の実績を活かした融資交渉
分院開設の強みは、既存院の運営実績があることです。金融機関には以下をアピールしましょう。
- 既存院の決算書(直近3期分)
- 患者数の推移データ
- 収支の安定性
- 返済実績
日本政策金融公庫の活用
新規開業資金
- 限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間:設備資金20年以内、運転資金7年以内
- 既存院の実績により、融資審査が有利
医療貸付
- 医療機関専用の融資制度
- 設備資金、運転資金ともに対応可能
補助金の活用
IT導入補助金
- 電子カルテ、予約システム等の導入に活用
- 導入費用の1/2〜3/4を補助
小規模事業者持続化補助金
- 広告宣伝費、ホームページ作成費等
- 補助上限:50万円〜200万円
事業再構築補助金
- 新たな診療科目の追加、訪問診療への展開等
- 補助上限:数千万円規模
デュアル融資戦略
効果的な組み合わせ例:
- 日本政策金融公庫:設備資金の主体
- 民間金融機関:運転資金や追加設備資金
- 自己資金:総事業費の20〜30%程度
よくある失敗例と対策
失敗例1:管理者の配置問題
既存院の院長が分院の管理者も兼務しようとしたが、両院の距離が離れすぎており常勤要件を満たせなかった。
対策:事前に保健所・厚生局に兼務の可否を確認。難しい場合は早期に常勤医師を採用。
失敗例2:申請期限の見落とし
保険医療機関指定申請の期限を見落とし、開業が1ヶ月遅れた。内装工事や医療機器のリース料、家賃の支払いが発生し、資金繰りが悪化。
対策:開業希望日から逆算してスケジュールを組む。厚生局への申請は前々月10日が期限。最低6ヶ月前から準備開始。
失敗例3:既存院への影響
分院開設の準備に院長が時間を取られ、既存院の診療・経営がおろそかに。既存院の患者数が減少し、収益が悪化。
対策:既存院の運営体制を強化してから分院開設に取り組む。事務長や看護師長に権限委譲し、院長不在でも回る体制を構築。
失敗例4:資金計画の甘さ
初期投資は十分に見積もったが、運転資金が不足。分院の患者数が想定より伸びず、開業後3ヶ月で資金ショート寸前に。
対策:運転資金は最低6ヶ月分を確保。患者数の立ち上がりは保守的に見積もる(既存院の1/2〜1/3程度)。
行政書士に依頼するメリット
分院開設の手続きは複雑です。行政書士に依頼することで以下のメリットがあります。
時間の節約と手続きミスの防止
院長先生に専念していただきたいこと
- 既存院の診療
- 分院のコンセプト設計
- 医師・スタッフの採用
- 資金調達の交渉
行政書士が代行できること
- 各種届出書類の作成・提出
- 保健所・厚生局との事前相談・調整
- 申請スケジュールの管理
- 必要書類の収集・整理
- 構造設備基準への適合性チェック
補助金・融資のサポート
- 活用可能な補助金の提案
- 事業計画書の作成支援
- 金融機関への提出資料作成
トータルサポート
分院開設には行政手続き以外にも多くのタスクがあります。経験豊富な行政書士であれば、内装業者・医療機器業者との調整、労務管理、その他届出を含めてワンストップでサポートできます。
まとめ
分院開設は、既存院の実績を活かして事業を拡大できる絶好の機会です。しかし、1院目の開業とは異なる注意点や手続きがあり、準備不足では思わぬトラブルに見舞われることもあります。
成功のポイント
- 既存院の経営を安定させてから取り組む
- 十分な準備期間(最低6ヶ月)を確保する
- 管理者の配置を早期に確定する
- 資金計画は保守的に(運転資金は多めに)
- 申請期限を厳守する
- 専門家(行政書士)の活用を検討する
弊所では、開設準備の初期段階からご相談いただくことで、スムーズな開業をお手伝いいたします。
分院開設をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせ アーネスト行政書士事務所 医療機関の開業・分院開設サポート
※本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。制度改正等により内容が変更される場合がありますので、実際の手続きの際は最新情報をご確認ください。